■ 保証債務履行を非課税で |
●社長は会社の連帯保証人
中小企業を経営し、その会社が銀行から借り入れをしていれば、ほぼ間違いなくその社長は会社の連帯保証人です。
銀行は会社の信用に対して貸し付けるのではなく、連帯保証人である社長個人の不動産を担保価値と認識して貸し付けるのはよくあることです。
社長個人を連帯保証人にし、社長の個人所有不動産に抵当権を設定し、やっと銀行は会社に貸し付けてくれます。
業績が悪化し、銀行が会社に対して借入金の返済を迫ります。
「社長、あの担保の土地を売却して返済してくれませんか。」
「仕方がない…。」
この段階になったなら、税務を強く意識しないといけません。
1億円の土地を売却し全額を銀行弁済。後から譲渡税が追いかけてきます。税率は20%ですから2000万円近くにもなります。その時に資金は残っていません。
●保証債務履行なら非課税
借金を返済するために土地を売却してもそれで非課税にはなることはありません。しかし保証債務なら特例があります。保証債務を履行するために不動産を売却して、かつ求償権行使不能となれば、税務上では売却がなかったことにしてもらえます。
1億円で売却し、会社の保証債務1億円を弁済し、会社からの回収が不能なら、税務では1億円の売却はなかったとされます。すなわち非課税なのです。
なお自分の借金を返すために不動産を売却しても非課税になりません(破産状態だから非課税ということはあります)。
ところが保証債務なら非課税になるのです。自分の会社の保証債務であっても、です。
●非課税が否認されるケース
「社長、あの担保の土地を売却して返済してくれませんか。」
「仕方がない…。」
銀行の言うままに売却すると次のようになりかねません。
保証債務履行の非課税が否認されたケースです。(国税不服審判所裁決 平成10年1月9日)
「本件譲渡は請求人が代表取締役であるA社の債権者から保証債務履行の催告を受け、その保証債務の履行のため資産を譲渡したものである旨主張するが、
(1)資産の譲渡前に請求人の保証債務の履行義務が具体的に確定しておらず、その履行をしなければならない状況に立ち至っていないこと、
(2)請求人は、譲渡代金をA社に貸し付け、同社は、これを借入金として経理処理し、これを原資として返済期限到来前に本件債務の弁済に充てていることから、請求人が単にA社の債務整理のための資金を提供したに過ぎず、保証債務を履行するために必要な資金のねん出を主たる目的として資産を譲渡したものではないと認められること、
(3)各債権者は請求人に対して保証債務の履行を求めていた事実はないことなどから、本件譲渡は保証債務履行のために行われたものとは認められない。」
借入金返済は滞っていないものの「早く返済してもらえませんか」と銀行員にジクジク言われたのが(1)と(3)でしょう。
実質は保証債務履行なのでしょう。しかし銀行の領収証は、社長宛「保証債務履行弁済金として」でなく会社宛「返済金として」とされてしまい、それにあわせ売却代金を社長が会社に貸付け、会社はその資金で銀行返済をしたという会計処理をしてしまったというのが(2)です。
銀行にしっかりと保証債務の請求をさせて、売却代金は会社を通さずに社長から銀行に「保証債務履行」として弁済し、その通りの領収証をとれば非課税になったかもしれません。
税務については「実質がこうだから」でOKになることも多いのですが、この非課税規定は違います。実質が保証債務履行でも、書面とお金の動きが保証債務履行でないといけません。
銀行員は保証債務弁済を受けるより、会社から弁済を受けることを望みます。そんな銀行員の言う通りにやると折角の非課税がダメになってしまいます。
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